蒼 穹

 05. 歴史の教科書は五十年前で終わってる

 甚平手作りの夕食を少年は喜んで平らげた。「おいしい! もしかしたら母さんの料理よりおいしいかも!」

 甚平は、ふぅん、と思った。(あいかわらずなのかー、よくカフェなんかやってるな、どういう商売してるんだ?)というのは胸にしまい、尋ねた。「で、学校でなんかあったんか?」

「うん――父さんが出張中なもんだから数学の授業がなくなっちゃうていう話、したよね。一日おきだからもう三回数学なしで、その時間、校長先生が話をしてくれるんだ」

「一日おきに校長先生のお話かー、そりゃあたまんねえよなあ。そうかそうか、同情しちゃうよー」

「それがねえ」

「あん?」

「それ、僕が聴きたかった話なんだ。もうずっと前から、知りたい、って担任の先生に要望だしてたことなんだ」

「ふーん、おまえは成績はいいって聞いてたけど、ほんとに勉強熱心なんだな。それで、いったい何の話なんだよ」

「地理と歴史」

「……へ?……」

「世界の地理と歴史さ。社会科の教科書には、地図は大雑把なのしか載ってないし、歴史は五十年前の『第三次世界大戦』で終わってる。けど、そのあとは? その頃のことが知りたくて、友達や、学校の先生に訊いてみた。けど、知ってるって人がいないんだ。社会科の先生も、そういえばよく知らないなあなんて言うしさ。それで学校の図書館や町の図書館にも行って手がかりを探した」

「……なんか見つかったか」

「戦争のあと、平和になって、科学技術がうんと発達して、経済も活発になって、世界中が発展したって。ここユートランドは二十年前までは高層ビルがびっしり建ってて、不夜城だったっていうんだ。うそだ、と思った。だって今ユートランドの町には広い空き地があちこちにあって、どう見たって一晩中灯りがついてるにぎやかな大都会とはちがうよ。学校の子たちだって、たいてい、貧乏で……」

「…………」

「二十年前ってったら、甚平さんは今の僕と同じくらいの歳で、ここに住んでたんでしょ? 二十年前、なにかあったんでしょ?」

 少年の眼差しを受けて、甚平は思わずたじろいだ。その血脈を彷彿させる強いまなざし。

「父さんも、母さんも、今の甚平さんみたいな顔、したよ」

「ごめんな。ジョージ。その頃のことは……俺も……あんまり……」

「聴いたよ、僕。校長先生が教えてくれた」




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